紫陽花

梅雨の時期なのに
降らない雨
私は雨が好きだ
泣いていても
誰にも気付かれずに済むから

そろそろ肌も乾いてきた
蛙だって雨を欲しているよ
ねえ
どうしてこんなに晴れているの？
雲だって一つも在りはしない
こんな日は嫌いだ

生まれ落ちたその場所によって
個性が生まれる
私は何色なんだろう？
カタツムリも教えてはくれない

変わらないもの
変えられないもの
きっともうそれは決まっていて
私に選択権はない
どうしてここに生を受けたのか
その意味もわからないまま
ただ生きていくしかないんだろうか


通り雨が降りだした
よかった
これで私もまた生きていける
よかった？
本当によかったのかな
そんなことはどうでもいいか
蛙とカタツムリは喜んでいるみたいだし

雨上がりに虹がかかり
水溜りは空を映し出している
明日のことはわからない
だって
明日の天気ですらわからないのだから
でも
明日への
未来への
焦燥感は未だ消えないまま

きっとこの景色も
きっとこの時間も
いずれ忘れ消え行くのだろう
それでも私は
ここで生きて
そして死んでいくしかないんだろうな


雨に濡れた傘をたたんで
誰かが私の前を通り過ぎてゆく
その子は立ち止まって振り返り
私を見て微笑んだ

どうでもいいことだ
私の色なんて
それはきっと
その子には映っただろう
そして
私は誰かを
一瞬でも
ほんの一瞬でも
幸せにすることができたんだ
きっとこれが
生きているってことなんだ


雨はまたしばらく降っていない
それでもいい
ここに私は生きていて
私の色は存在していて
ここで生き抜く決心はついたよ


ある晴れた日の午後
僕はある花弁がしおれそうな紫陽花をみつけた
きっとそれも
生きている
生きてきた
証なんだろうな